行為が対話になる・Action Becomes Dialogue
期間:2024.6/20〜27
会場:東京都立大学日野キャンパスSDギャラリー(2号館1階)
担当教員:ヴァール・アダムス
ゲストアーティスト/講師:鈴木興,村井旬
【概要】
このプロジェクト演習ではヴァール・アダムス(担当教員)と2人の講師/ゲストアーティスト(鈴木興,村井旬)と選抜された東京都立大学日野キャンパスで学んでいるデザインの学生グループとの交流を通して、サイトスペシフィックなアートワークの制作を探求する。このワークショップの目的は、学生たちに、東京都市大学キャンパス内の見慣れた展示スペースに微妙な差異をもたらすことで、空間の本質と場所の意味を再考する機会を提供することである。
【方法】
①講師/ゲストアーティストが、SDギャラリーで事前に仕掛けを制作する。
②ワークショップ初日、参加学生に導入レクチャーとともに設置された仕掛けを提示する。
③受講生は、インスタレーションを制作する行為を通して既存の展示空間の状況や事前に設置された仕掛けに対応する。
④ 完成したインスタレーションは一般公開される。

光の役割と記憶の再現性〜写真と人間の記憶の交錯
光に当たることで事物は姿を現し、私たちはそれによって視界を得ています。写真は一般的に客観的な記録と考えられていますが、実際には撮影者の主観や意図が写り込むこともあります。撮影者は被写体や状況を選び、構図や視点を決めることで、写真に自分の視点や感情を表現することがあります。一方、人間の記憶は主観的な要素が強く、経験や感情によって影響を受けます。そのため、同じ瞬間を写真として捉えた場合でも、人間の記憶とは異なる印象や感情が生じることがあります。
私は写真と人間の記憶の関係性に焦点を当てて作品を作っています。人間の記憶は固定されたものではなく、さまざまな要素や要因によって構築されています。例えば写真を見た時に小さな部分から気配を感じ、記憶とは違う目に見えないものを頭の中で想像してしまうことがあります。私はこのような分からなさに気づいてもらうことで、単に過去の再現ではなく、複雑で多様な要素から成り立っている記憶の性質を表現しています。記憶の再現性や安定性に疑問を投げかけ、抽象と具象を行き来しながらもリアルな要素を取り入れ、人間の存在や感情の奥深さを探求しています。
むらいじゅん(美術家)

『顔を壁に擦るーrub your face against the wall』2024、アーカバルインクジェットプリント

『行為が対話になる』の企画意図の枠組みの中で、環境をクライアントと位置づけたとき、日野キャンパス内にあるSDギャラリーとの関わりが対話として浮かび上がります。私たちが日常的に行うコミュニケーションの形態を再考し、それを超えた対話の可能性を追求することで、見る者に対話とは何かを起点として作品を作りました。会えているのに姿が見えない相手との、見えない線を超えた相互理解に向けた試みです。
顔を壁に擦る
2024年、アーカバルインクジェットプリント、可変
この作品は、語られることのなかったSDギャラリーの声を聞くための試みです。通常、我々は建築や空間は入り口をくぐり抜ける時にだけ存在を確かめますが、目の前のことに集中をしはじめるとそれ以外のことなどは忘れてしまいます。今回は、無意識のうちにその存在を消している空間へ私の方から近づきました。自らの身体を、顔や耳、手を壁に擦りつけ、SDギャラリーという「声を持たない依頼主」との対話を試みました。この行為は、単なる物理的な接触以上の意味を持ちます。デカルトが「我思う、ゆえに我あり」と述べたように、我々の存在証明は思考によってなされています。感覚を通じた対話の可能性を探求しました。その結果、私は空間との新たな関係性を築き、それを写真という形で提示しました。写真作品は、左右の頬が朱色に染まる様子を捉えた2枚1組となっており、行為の痕跡を物理的な形で残しています。この痕跡は、SDギャラリーとの対話が成立した証拠であり、その対話がいかに意識的であったかを示しています。一見して奇妙に映るこの行為は、しかし、我々がふだん意識しない環境との関わり方について深く考えさせられました。